滲出性中耳炎

滲出性中耳炎診療ガイドラインについて

 滲出性中耳炎は、就学前児童の90%が一度は罹患する中耳疾患であり、小児の難聴の最大の原因です。日本ではこれまで、滲出性中耳炎の診断や治療法など管理の方法に幅があったことから、医療機関によって治療方針が全く異なっているかのように受け止められていました。これを受けて、2015年1月に日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会によって「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2015年版」が発行されました。

 当院では、このガイドラインをもとにわかりやすい診療に心掛けています。

 

 

 

滲出性中耳炎の実際の写真

 滲出性中耳炎とはどんなものか、まず耳の中の写真をご覧ください。正常の鼓膜と比べていただくとわかりやすいと思います。

 

正常の左鼓膜

 

 

 

   通常、鼓膜の奥(中耳)には貯留液はなく、透き通っています。

   

左滲出性中耳炎

 

 

 

   鼓膜の奥(中耳)に貯留液がみられます。

   痛みはありませんが、聞こえにくさ、耳のつまりなどの

  症状がみられます。

 

 

滲出性中耳炎  診断と治療

 滲出性中耳炎上気道感染(かぜ)罹患後あるいは急性中耳炎後などにおこり、鼓膜の内側に液体がたまります。

 

 原因は、感染後に耳と鼻をつなぐ通路が狭くなり(耳管機能障害)、鼓膜の内側にたまった液体が鼻に流れていかないためです。

 

 症状は、耳のつまり聞こえにくさなどで、痛みはほとんどありません。幼少児では、症状を訴えることが少なく、気づかれないまま放置されることがありますので注意が必要です。

 滲出性中耳炎は乳幼児に多く発症し、年齢と共にその頻度は減少します。健康な小児でも2歳までにほとんどの小児が罹患し、大多数は気づかれず自然治癒していると考えられています。一方、長期にわたり貯留液の改善がみられず、鼓膜の変化・悪化をきたすものもあります。治癒せず、放置すれば、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎など後遺症をのこす中耳炎に移行する可能性があります。必ず耳鼻咽喉科専門医の診察を受けてください。

 

 

 診断

 顕微鏡で直接鼓膜を観察することが必要です。(内視鏡で観察することもあります。)

 ②年長児では聴力検査を行い、聴力低下の程度を調べます。

 ③ティンパノメトリーを使って、たまった液の有無を客観的に調べることがあります。

 ④遅延する場合、レントゲン、CT、鼻咽腔内視鏡などで、耳管機能を傷害する病気(副鼻腔炎、アデノ

  イド増殖症、上咽頭腫瘍など)がないか調べることがあります。

 

  治療

 ①治療は、気道粘液修復剤(ムコダイン)の内服、耳管機能の改善目的で、鼻処置、鼻ネブライザーを行

  います。

 ②アレルギーがある場合は抗アレルギー剤、副鼻腔炎などの感染がある場合は抗生剤を使用します。

 ③聞こえが悪い場合、鼓膜の状態が悪い場合などは、鼓膜切開術を行い、一時的にたまった液体を取り除

  きます。

 

 ④上記の治療を行っても3か月以上治癒しない場合は、鼓膜換気チューブ留置術を行います。6か月~2

  年の間、鼓膜の内側にたまった液体を持続的に取り除き、空気を送り込みます。小児では、全身麻酔下

  での処置が必要となることがありますので、その際は入院(1泊2日)が必要です。

 

 

当院で小児に行った鼓膜換気チューブ留置術

 

 チューブの種類


 シェパードタイプ

 

 Bタイプ


 Tタイプ

《鼓膜チューブについて》

 鼓膜チューブには、いろいろな種類があります。大きさは写真のように、鉛筆の芯と同じくらいです。

 シェパードタイプは短期留置型で、挿入しやすいが抜けやすく、何度か再挿入する可能性があります。

 Bタイプ、Tタイプは長期留置型で、挿入しにくいが抜けにくく、そのためチューブ抜去後に鼓膜穿孔が残存する可能性があります。

 どのチューブにするかは、鼓膜の状態やその子がどのくらい動かないでいられるか等、いろいろな要因を考慮して決定します。

 

 

 

 2013年3月1日~2020年7月20日まで       (F:女性  M:男性)

 

 

 

《麻酔について》

 基本的には、局所麻酔で手術を行います。小さな綿に麻酔薬をしみ込ませ、鼓膜の上に10分間置くだけで、局所麻酔は完了します。

 延べ88児中7児は、国立病院機構再春荘病院に入院して、全身麻酔で手術を行いました。体動が激しく局所麻酔での手術が困難であったり、鼓膜の陥凹(へっこみ)が強く、手術時間が長くかかりそうな幼少児が全身麻酔の対象となります。痛みや恐怖を感じずに手術を受けることができますが、1泊2日の入院が必要で本人にもご家族にも少し負担がかかります。

 

 

 

 

院内パンフレット